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O~必要不可欠要素~

ヲタクブログです。 絵は無断で持ってかないでください。 ついったーでも呟いてます→wataame1gou シブ垢→523874

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ねもい

フロイデンベルグさん視点でリヴァイとジャンの話



その日店長は遅番で、休みのヒッチ先輩の代わりにジャンさんが午前中の全てのお客さんを担当していた。
技術学校でまだまだ勉強中の俺は、同じようにカレッジに行かずハイスクールから技術学校出て就職したジャンさんにお客の途切れる時間を縫って色んなことを教えてもらっていた。
技術学校より前の学生時代から堅物と笑われていた俺は接待に関してはまだまだで、日々初見のお客さんですら緊張をほぐししっかり心をつかむジャンさん達の会話を聴いて学ぼうとしていた。
ジャンさんは俺とそう歳が離れていないのに数々の男性の固定客を獲得している。
彼は慣れてきたリピーターに耳掃除のサービスを付加することで固定客の心をガッチリつかむ事に成功した人だ。
一部の理髪店では別料金で耳掃除サービスを行って人気があるのは有名な話だが、この耳掃除サービスというのもパーソナルスペースを非常に縮める行為なのでかなりの信用がなければ拒絶されるものだ。
また過剰なサービスを期待され、失望されやすいものでもある。
それを成功させたジャンさんはかなりの人たらし…ゲフン、接客上手に違いない。
見習うことばかりだと話をしていたら、予約の時間が迫っていた。
次の予約は初めての方で、口コミでウチを予約してくださったそうだ。

ドアベルがカランと音を立てる。清潔感のある身なりをした黒髪の男性が来店した。
元は刈上げにしていたのか、少しだけ伸びた襟足で居心地悪そうに首を回している。
おしゃれにはさほど関心を持たないが、手放しに髪を伸ばすのも嫌うキッチリタイプかと見た俺はいつもどおり受付を行った。
ウチの店は最初に洗髪から入るのだが、普段はアシスタントの俺がそれを担当している。といっても初回は顧客の緊張を取るためにカット担当が洗髪するのがいつものパターンなのだが、たまにカット担当の人以外に髪を触られたくないという人もいる。
ジャンさんの場合は重度の固定客…ゲフン、ウチに来て長いリピーターの方は特にその傾向が強い。だいたいどのお客さんも一度は俺が担当するもんなんだが、ジャンさんのご友人というエレンさんは特にひど…ゴホン、一度も譲らないことで有名だった。ジャンさんが多忙で店長が代わりにって言った時すら拒否したってレジェンドを聞いたことがある。バックヤードでのあの人の評価は一致して「ヤバイ」だったのは言うまでもない。
まあそんなわけで初回はジャンさんが洗髪するので、俺はそっと洗面台近くのシャンプー等を確認してカット台の道具を確認しに移動した。
洗面台とカット台は近くにあるので自然とジャンさんと黒髪のお客さんの会話が聞こえてくる。

「先に洗っちゃいますね。首元はきつくないですか?」
「大丈夫だ。…悪くない」
「?顔にガーゼ乗せますね」
「いらん」
「えっ」
「必要ない。顔に湯が掛かりそうになったら閉じるから、顔に乗せるのはやめてくれ。それとも見られるのは嫌か?」
「…いえ、顔にかからないよう丁寧にしますね」

一瞬固まったがにこやかに対応したジャンさんは流石だ。
稀にガーゼが清潔か気になるという方もいらっしゃるし、暗いのが気になるというお客さんも居るという話を聞いたことがあるので成る程と思った。…その時はそう思ったのだ。

お湯の温度を調整して髪全体をまんべんなく濡らす。
髪のすすぎは一番大切な作業で、最初のお湯のすすぎで髪の汚れの7割は落ちるのだ。頭皮のコリを解す為に柔らかくしっかりと頭皮を揉み込む。頭皮に血流が集まる様な気分になるまですすいでから一端お湯を止める。
自分の作業をしつつジャンさんの手際流石だなあと見ていると、俺はお客さんの顔の変化に気付いてしまった。
必死に平常の顔を保とうとしているが、口元が微かに震えている。洗髪の気持ちよさに口をポカンと開けてしまうのを必死に耐えているのだろうか。それならガーゼで見えないようにすればいいのに程度にしか考えていなかった。だが事実はもっとひどいことになっていたのに後で気づく羽目になるのをその時の俺は知らなかった。というか正直知りたくもなかった。

シャンプーを手にとってすすいだ髪にポイントごとに分けて付ける。耳の付け根近くから泡立て片手で後頭部を抱えるように支え、利き手でうなじ上部から上に向かうようにワシャワシャと泡立てていく。頭頂部まで行ったらこめかみ近くの生え際から正面を丁寧に泡立て、全体の髪を絞って余分な泡をとる。
頭が冷えない程度に頭のツボを押さえるように指圧していき頭皮のコリを完全に解す。そしてまんべんなく汚れを浮かせたら再度髪をすすぎ出した。
髪の水気を切れるだけ切るように髪を絞り、タオルを頭に巻く。同時に倒していた椅子を元に戻して洗髪は終了だ。

「お疲れ様でした」

洗髪後のお決まりの一言を言ってジャンさんは先導するように手をカット台の方へ差し向けた。移動してもらう為だ。その手を見つめるお客さんの目を見た時、俺はつい口から出そうになった悲鳴を出さないよう必死になった。
正直二度と見たくないと思っていた光景を見てしまったからだ。
俺が働き出して初めて見た時と同じ、エレンさんがジャンさんの手先を見つめる視線。手をその熱で溶かすつもりなのかというほどの熱視線を、このお客さんもジャンさんに向けていたのだ。
お前も超重症の手フェチかよおおおおお!!!

もうお腹いっぱいですと思いつつ、あまりの事態に俺は青ざめた顔でゆっくりと視線を揺らすと、ジャンさんは一つ溜息をついてその手をゆらゆらとお客さんの顔の前で揺らした。当然お客さんの目もそれを追っている。身じろぎしない身体と唯一動く目…というか眼球がいささかホラーチックで、ホラーが苦手だと言っていた友人の言葉に今だけは同意したいな、などとどうでもいい現実逃避をしていた。リアルホラーは二度と勘弁いただきたいものだ。
俺が意識を飛ばしている間に慣れた様子でジャンさんが話かける。

「お客さま、お気分が優れないのでしょうか?」

どう見てもそういう風には見えないが…と思いつつ見ていると、ジャンさんは顔の前で振った手と逆の手をそっとお客さんの頬に触れさせた。お客さんの視界に入るようにゆっくりと、しかし触れられると思っていなかっただろうお客さんはハッとした表情の後、目を閉じて感じ入る様に、その上もっとと言わんばかりに頬を手に擦り寄せそうになった。
男同士のあまりの絵面に俺が思わず目を逸そうかというタイミングで流石に理性が戻ったのか、お客さんは「大丈夫だ」と言って、あまり大丈夫でなさそうな早足でカット台へ歩き出した。
速すぎて頭にのせたタオルが一部とれかけている。呆然とカット台をお客さんの方向へ向けていた俺は慌ててお客さんが椅子に乗ったタイミングで台を鏡に向かわせるように回転させた。
場所を譲るように俺がジャンさんに顔を向けて身体をずらすと、ジャンさんはお客さんの鏡から見えない位置で肩をすくめ、慣れた様子で微苦笑した。

…手フェチのあしらい方を知っているジャンさんの経験って、どうなんだろう。すごいけどちっとも羨ましくない。

その後のカットは、最初の予想通り後頭部の刈上げと全体のバランスを整える形になった。最終的にブローまでかけてスッキリした髪に上機嫌になっているお客さんを見るのはこの仕事の醍醐味だと思っている。が、自分が担当したわけでもないのにものすごく疲れた気分になった。どう見てもジャンさんを気に入って二人の世界に浸りきっているお客さんの雰囲気の中、仕事上どうしてもその場に居なければならないいたたまれさはもはや苦行だ。
エレンさんだけでも結構辛かったというのに、増えるのか。増えてしまったのか。
頑張ろうと一人決心している俺の横でジャンさんを気に入って離さないお客さんのためにジャンさんがレジスターの前に立っていた。何も俺が考え事をして仕事を忘れたわけではない。アイコンタクトでこの人はジャンさんじゃないとなんやかんや話しかけて店を出て行ってくれない可能性があるから仕事を交代したのだ。実はカット担当を気に入って話し込んでしまうお客さんも結構いるのでこういった対応もよくしている。お客さんが話し好きかにもよるけど、好感度が高いお客さんの多いウチではよくある光景だ。

「ずいぶん良い店だ。雰囲気も腕も悪くない。また次回も利用したいが、お前のシフトは決まっているのか?」
「ありがとうございます。シフトはちょっと不定期なので断言は出来ませんが、お早めのご予約の時にお話いただけたら調整出来ますので、ぜひご利用ください」

そういって爽やかに微笑むジャンさんは今日も固定客を獲得した。

プロとして見習うべき接客、だけども、今日ばかりはちょっと羨ましくはないなと思った一日だった。

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