O~必要不可欠要素~
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お見合い日カム日のラスト?ぐらいの時代列のお話。カム28×日向34で響子ちゃんの同級生の苗木君視点。この時はもうすっかりカム日になってます。
学園生活にも慣れてしばらく経った頃、僕は同じクラスの霧切さんが寮生活をしているのにいつも決まって放課後から夕食の時間まで居ないことに気付いた。
超高校級の探偵である彼女がいつの間にかどこかに行って情報を掴んでくるのは彼女の才能から考えたら不思議なことじゃないんだろうけど、こうもきまっていなくなるとそれが彼女のライフスタイルなのか、それとも依頼が入って忙しいのかの判断もつかなくって、それも同じクラスメイト…と同じ寮生活している身としては良くないのかもしれないって、こっそり聞いてみる事にした。
よくよく考えたらそれも彼女に対して立ち入りすぎなのかなって後で気付いたけど、でもせっかく仲良くなってきたんだから少しは頼りにしてくれたらなって思ったのは本当だ。僕は運だけで学園に入ったこの上ない一般人だけど、それでも力になれることはあるはず。…多分。
それで霧切さんにそのことを話しかけたんだけど、彼女は珍しく驚いた顔をして、「苗木君のくせによく見てるのね」と言われてしまった。く、くせに?
その後少し考えた後、霧切さんは「それなら今日は一緒に行きましょうか」と言われた。どこに?と聞くとまだ秘密、と人差し指を口に押し付けて、いたずらするような顔をしてた。意外な顔を見れてちょっと可愛いなって思ったのは内緒だ。
そうして今僕はとある商店街に面した雑貨ビルを見上げている。賃貸ビルの一階層丸ごとに入っているそこはビルの看板に『神座探偵事務所』と書いてあった。…小説とかでは見たことあるけど、堂々と看板掲げてる探偵事務所は初めて見たから僕はちょっとドキドキした。
事務所の入り口のドアをノックして霧切さんを先頭に中に入る。
「出流兄さん、入るわよ」
え、霧切さんお兄さんがいるんだ!?僕は知らなかった霧切さんの新事実に驚きながら邪魔にならない程度に中を見回した。
入ってすぐのその部屋は多分応接室なんだろう、長い3人がけのソファと向かい合うように一人がけのソファが2つ、ガラス製のテーブルを挟んで置いてあった。壁添にシンプルな本棚、入り口近くに簡易的な受付用のカウンターと壁に沿うように長椅子が置いてある。
そしてそのソファの上に、身を横たえた若い男性が気だるけな様子で佇んでいた。
霧切さんの髪とは似つかない烏の濡羽色に近い黒髪は短くて、僕はどちらかというと霧切さんのお父さんである霧切学園長に雰囲気が似ているなと思った。
その男性はこちらを見ずに「響子」と霧切さんを呼んだ。
「あら、今日は創兄さんだけ?」
「いや、出流は少し出てるだけだ…おや、お客さんかい?」
霧切さんと話しながらこちらを向いたその男性は僕の姿を見て少し驚いた顔をした。僕は慌てて自己紹介をする。
「はじめまして、僕は霧切さんのクラスメイトの苗木誠と言います。えっと、霧切さんが放課後決まった時間にどこかに出かけていたので…」
「その理由を説明しにここに連れてきたの。苗木君は私と同じ様に寮生活もしてて、私が緊急時に連絡とれなくなったらいけないからって心配してくれたみたいだから」
「なるほど。いやービックリした、とうとう響子が彼氏連れてきたのかって思ってさ」
「そんな事態になったら出流兄さんが大人しくしてないでしょ」
「それもそうか」
彼氏だなんて言われて僕は驚いてまごまごしてしまった。そんな僕の挙動を見て霧切さんもお兄さんもくすくす笑っている。困り果てた僕の顔を見てお兄さんは佇まいを正した。
「済まないな、苗木君。私…俺の名前は日向創だ。名字は違うけど、俺も、今から帰ってくる出流…ここの看板に書いてある神座出流も響子の血の繋がった兄だ。よろしくな」
「あ、はい。よろしくお願いします。それと僕のことは呼び捨てで大丈夫ですよ。みんなそう呼んでくれているんで」
「そうか。じゃあ遠慮無く呼ばせてもらうな、苗木」
軽く日向さんと握手して、僕は率直に気になったことを訊いた。
「あの、日向さんは霧切学園長と血の繋がった親子なのになんで名字が違うんです…??」
疑問を口に出した途端に霧切さんからおかしな声が聞こえててきた。そのせいで僕は変な語尾で言葉を止めてしまう。なんとあの霧切さんが、お腹を抱えて笑っていた!僕は半端無く驚いて口をぽかんと開けてしまった。
そして顔を正面に戻すと日向さんがものすごーく渋い顔をしていた。あれ?そんなに僕変なこと言ったのかな?
「ぷっ…ふふっ…ほら言ったでしょ?これが『普通』のリアクションなのよ兄さん。なんてったって苗木君は『ベスト・オブ・普通』なのよ」
「き、霧切さん僕の最初の自己紹介引っ張るのやめてよ…というか、あの…?」
「…響子、まさかこのリアクションの為に彼を連れてきたんじゃないだろうな?」
「違うわよ。…期待してなかったといえば嘘になるけど」
まだくすくす笑う霧切さんを見て一言溜息をついたあと、日向さんは説明してくれた。
「俺と仁さん…霧切学園長は一切血が繋がってない。俺の母親と仁さんが再婚して、それぞれ連れ子だったのが俺と出流だ。ちなみに出流の名字の神座は昔の仁さんの名字で、仁さんの母方のものだ。そして神座家は希望ヶ峰学園創始者の家系でもある。仁さんは探偵を生む名家の霧切に生まれついてなおそっちの才能を持ってなかったから名字を神座にしてたそうだ」
「…そしてその後探偵の才能を持った響子が生まれ、父は霧切の名を用いるようになりました」
「出流、戻ったのか」
説明をしてくれていた日向さんの言葉を引き継ぐように口を開いた男性が事務所の入り口近くに立っていた。
出流と呼ばれたその男性は、腰をゆうに超える長い黒髪をそのままに、けぶる前髪の隙間から覗く瞳は血のように真っ赤に輝いていた。初夏の日差しだというのに喪服のような真っ黒な3ピースを携えたその人は見ていて暑苦しさを覚えるより何故か寒気を感じさせる雰囲気を持っていた。
この人、生きてる人だよな…?とつい疑問を持ってしまう。それくらい浮世離れた何かを持った人だった。
「おかえりなさい、出流兄さん」
「はい…そして貴方が苗木誠ですね」
いきなり名指しされて僕はピッと背筋を伸ばした。霧切さんが僕のこと伝えていたんだろうか…?
「響子からは説明を受けていません。ただ僕の個人範囲で貴方のことを知っているだけです」
そうしてソファに座っていた僕を淡々とした目で見下ろす神座さんから冷えた空気を感じるような気がする。
「そういじめるなよ出流。知ってたんだろ?」
「そうですが…」
「なら響子の見る目も信用してやれ。あいつの人を見る目はお前も認めているだろ?」
「それはそうですが。ただこの世の中『それはそれ』という言葉もあります」
「出流。」
最後にそう名前を呼んだ日向さんの声に、無表情のはずなのにシュンとしたような神座さんは渋々といった様子で日向さんの隣に座った。手に持っていた箱をテーブルに乗せる。
「おやつです。響子、紅茶を」
「わかったわ」
「創」
「はいはい。休憩中の札はもう替えてるんだろ?」
そうしていつの間にかすんでいるお茶会の準備に僕はあわててお礼を言って、僕はガトーを霧切さんが淹れてくれた紅茶とともに頂いたのだった。
・おまけ
「そういえば出流兄さん」
「何ですか」
「牽制のつもりで私達、というか苗木君が来る前に創兄さんを『ピー』してたんでしょうけど、苗木君ちっとも気付いてなかったわよ」
ブフォッと僕と日向さんが同時に口に含んでいた紅茶を吹き出してしまった。テーブルを汚してしまったけれど、それ以上に霧切さんの口から彼女にそぐわない言葉が出てきたことに衝撃を受けて僕はテーブル拭きもせず呆然としてしまった。
「おい響子、女の子が放送禁止用語をいきなりクラスメイトの前で口走るのやめろよ!」
でも発言の内容には反論しないんですねお兄さん…僕は気づかなくていい事実にいっそ目をそらしたかったけど、無理そうだった。ああ、気だるげな雰囲気だったのはそういうことだったんですね。チラッと見ると首元に赤い跡があるような気がする。泣きたい。
せっせと手早くテーブルを拭かれた日向さんに気づいて僕は恐縮したり顔を白黒させていた。
「そういった面で創に反応しなかったのでまあ及第点です。あくまで創に限ってですが」
「あら、反応しないのを見越しての実験だったんでしょう?でなければそもそも創兄さんをここに置いたままにしてないでしょ」
「反応したら響子の周囲から消すつもりでした」
危ない、下手すると僕消されるところだった。
「か、神座さんってものすごく兄妹思いなんですね…」
苦し紛れに口から出た僕の言葉に日向さんが目を丸くしたあと、くすりと笑った。
「…面白いな。いい子と仲良くなれてよかったな、響子」
「当然でしょ。なんてったって観察眼は『元超高校級の希望』の出流兄さんお墨付きなんですから。…出会えたのはめぐり合わせでしょうけど」
なんだか伝説級の称号が聞こえてきた気がするけど、日向さん以外ちょっと表情がわかりにくい兄妹達が和気あいあいとしていたので、僕は隅っこで静かにしていたのだった。