O~必要不可欠要素~
ヲタクブログです。 絵は無断で持ってかないでください。 ついったーでも呟いてます→wataame1gou シブ垢→523874
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寝て起きて、一番最初にするのはその日つける手袋を準備することだ。顔を洗って身支度を済ませたその締めに両手に手袋をつける。立体機動の対Gベルトの調整は先に済ませておいた。手袋をしたまま細かな調整まで出来る気はまだしない。
今日は立体機動を使った訓練も入っているからその時用の黒の革手袋もジャケットに入れて、食堂に足を進めた。
今日は立体機動を使った訓練も入っているからその時用の黒の革手袋もジャケットに入れて、食堂に足を進めた。
調査兵団に所属している人間で日常的に手袋を使用している人間はオレを置いて他にはいない。はじめは兵団の先輩に潔癖症なのかと驚かれたが、特にそんなことはないというと納得しかねるような顔をされていた。確かに手袋をつけていると不用意に汚すのは後の洗濯が面倒になるから注意するようにはなったが、ただそれくらいだ。それより手袋したまま日常生活の大部分を器用にこなしているオレの動作の方がすごいなと妙なところで感心されてしまった。
書類仕事がある時は指先が開いている手袋を使用している。これもペンで書いたインクが指につくことが減るのでなかなか便利なんだなと思ったけど、ペンで汚れた手袋を今度は洗うのが大変なので人前であまり書類仕事をしないようになってしまった。なんだか本末転倒な気がする。
人前でしなくなったといえば、食事もあまり大人数の居る場でしないようになった。食事の時はさすがに手袋をつけるわけにいかないので(手袋をつけたままパンは千切れない)手袋を外しているのだけど、普段手袋をつけていることが逆に印象に残っているようで、変に注目を浴びるのでそれを避けるようになった。
それならそもそも手袋自体つけなけりゃいいだって?
それがそうもいかない理由がある。
「ジャン!」
「おー、兵士長のお供かエレン。…それとも逆か?」
「いんや、今回はお供。全体会議があるって本部(こっち)に呼び出されたから監視離れられないだろって連れて来られた」
「そうか」
恐らくリヴァイ兵士長は今その会議に出席していて、その間お許しを貰って同期の顔を見にやって来たんだろう。エレンの古城隔離はまだ解かれていないが、既に調査兵団に身を置いてしばらく経つ本部(ここ)ではエレンを異様に扱う人間も減ってきた。良くも悪くも本部内の人間がエレンに慣れたからだろう。「自分の意志をもち人類に牙を向かない人サイズの巨人」という認識よりも普通の人間としての印象が根付いた結果だ。
特にアイツと元々つるんでいたオレ達104期生はアイツと普通に同期の会話を繰り広げるから周囲により一層その「普通の少年としてのエレン」の印象に拍車をかけただろう。もしかしたら兵士長のお許しの目的にそれも含まれいていたのかもな。
オレもぼんやりそう考えながら殆ど脊髄反射でエレンからの近況やらの話に付き合っていたのだが、その話の間にちらりとエレンがオレの手を見た事に気付く。
オレはエレンの話に付き合いながら特に手を見るでもなく手遊びするように白い手袋を取って、手袋をつけたせいでより日に焼けなくなって白くなった自分の手をエレンの頬に伸ばした。
エレンは上機嫌に喉を鳴らす猫のように目を細める。
オレの同期、エレン・イェーガーは変わった嗜好がある。アイツのお眼鏡にかなった手に触れらえるのを何より好むということがそれだ。
そしてオレの手はそのお眼鏡の中でいっとう素晴らしいものなんだそうだ。
だからたまに会えた時は存分に撫でてやることにしている。
エレンを撫でるようになってしばらく経つが、未だにエレンが何を思ってオレの手を気に入ったのかちっともわからない。手の形とか言われても、確かにずんぐりむっくりしてはいないと思うが、かと言って特に優れて美しい形をしてるってわけでもない。どう見ても十人並みだと思うし訓練で凝り固まった胼胝はあちこちある、ありふれた兵士の手だ。
だけどもエレンのよくわからない琴線に引っかかるらしく、「絶対に不用意に肘から先を丸ごと素肌を出すな」と懇願されてしまった。当然オレは男の袖まくった腕見て誰が喜ぶんだよとはじめは気にもとめなかったんだが。
そしたら!あの変態!いきなり肘を舐めてきやがって!!
あまりの気持ち悪さに鳥肌が止まらず(しかもエレンは気持ち悪がるどころかうっとりした顔をしてやがった。条件反射で顔面に肘鉄を食らわせてやった)肘鉄のせいで出た鼻血が肘につくわ服は野郎の血で汚れるわでオレは散々な思いをした。顔面肘鉄でさすがに懲りただろうと考えたオレが別の機会にまた腕まくりをしようとしたらエレンが構えたので、それ以降アイツの前では腕をむき出しにしないようにしている。
話がそれた。肘を舐められるのは流石に勘弁して欲しいところだが、だからといって過剰に見られたくないから手袋をしているわけじゃない。手袋をしているのはエレンがきっかけではあるけれど、別にアイツに懇願されたから一々面倒な日常生活を営んでいるのでは決してない。アイツのお願いなんてこっちから願い下げだ。
そしてその真意をアイツに告げることだって死んでも御免だと思っている。
「ジャン…」
髪を撫で付け顎をくすぐるように指を這わす。首筋に手のひらを滑らすと上気したエレンの肌が赤く映える。ほんのり潤んだエレンの目が光を乱反射して、普段の鉱石のような鋭い強い光が柔らかくなる。
この目だ。
(ハートマークまで見えそうだな)
エレンはオレの手に触れられている間は、獣じみた巨人に対する憎悪が消えてなくなっている。愉しい、嬉しい、気持ちいい。そこには「悦」の気持ちしか現れていない。
-アイツが憎しみを持つことを否定しているつもりじゃない。憎しみが原動力になって今のエレンが前に進んでいる事をオレは訓練生の頃から嫌でも知っていた。でも、エレンはいつか自分の中の獣に自らの肉体を全て捧げて、巨人に喰われてしまうんじゃないかという恐怖が、トロストのあの事件を目の当たりにした時からずっとオレの中に住み着いていた。エレンが巨人に意識を飲み込まれ、巨人に囚われて唯の人類の敵である「頭の悪い巨人」になるかもしれない、だなんて酷い皮肉が当然あり得てしまう事を、オレは知っている。知ってしまった。
だからオレは時々こうやって唯のエレンの趣味を引き出して、人としての悦びを思い出させようとしていた。実際はそんなたいそれたことじゃないんだろうなってわかっている。自分が凡人であることはオレが一番わかっているけど、それでもオレの手の1本や2本で獣から人に戻せるんなら安いもんだと、オレは七面倒臭い手袋生活を始めることにした。
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