O~必要不可欠要素~
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ちっとも萌えない…
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ちっとも萌えない…
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もともとは少女を模した合成音声が歌っていた曲を、一オクターブ低く歌い始める。
最初は淡々と、それでも機械で表現しきれない人間の湿度を声に乗せて、曲は進んでいく。
テクノの色味が強いテクノポップ調が最初のサビに向かって音を展開し、高音へ。
整った声だけども、それでもまだ一般人の枠を超えない程度の声だとサビを終えて考える。
しかしそのすぐ後に視聴者は最初の驚きを迎える。
伸びやかな高音から低音まで数パートに分かれたコーラスがアドリブ…原曲にないメロディが流れる。
今まで一本しかなかったリードボーカルがコーラスによって途端にボリューミーになり、そして男声でよくも出るものだと感嘆するほどの高音が響く。
普通ならややもすれば耳障りになりかねないのに、奇妙な力みを感じさせることもないソレがポンポン出てきて、視聴者を感嘆の渦に巻き込んでいく。
ラストスパートで多彩な色を見せるようなハーモニーと音域の広がりを感じて、曲が終わった。
その曲は歌い手レンの最初の「人気曲」であり、彼の歌い手としてのターニングポイントとなったものだった。
「本当になー。俺この曲大好き。曲自体が好きなのはもちろんなんだけど、ジャンが考えてくれたハモりがほんっとう良くって、俺この曲聴いて脳内麻薬出るかと思ったもん。自分の声なのに」
とあるマンションの一室、音響環境の整ったその部屋の真ん中に鎮座しているPCから再生されていた動画が停止して、その部屋の主であるエレン・T・イェーガーはそう言った。
「あー、それがハモりの一番の良い所な」
同席していたジャンは同意の言葉を落とす。
ふ、と吐息が漏れた。
「まさかエレンと音楽の話が出来るとは思ってなかったぜ、ホント」
「だな。てかお前が歌上手いの俺知らなかった」
まあ前世じゃそんな話するヒマもなかったもんな、と零したジャンの言葉に、もしや前世でも歌が上手かったんだろうかとエレンは眉を動かした。
出会った当初の喧嘩スタイルが尾を引いて、ジャンの心の内に自分が入れたと分かったのはあの戦いの最後の最後だったから、エレンはジャンの事になるとほんの少し卑屈になる。
マルコほどまで深く関係を持ちたかったとは思わないけど、それでもエレンはもっとジャンの事を知りたかった。
そんなエレンの心の内を知らないジャンはエレンの沈黙に取り合わず話を進める。
「さっすがにお前の曲はMIXん時に腐るほど聴いてるから飽きたけど、時間置いて聴くとまた脳汁出るな」
「俺は今でもなんか自分の声って感じしなくて不思議な感じするけどな。特にジャンがMIXしてくれると元より数段良くなってるから、なんつーか、本当これ俺なの?ってなる」
「オメーはいい加減自分の声に慣れろよ」
「流石、自分の声聴き過ぎて自録りが嫌になっちゃって、自分の曲歌わなくなっちゃったジャンさんですねー。お前なんで途中で飽きちゃうんだよ。もったいない」
「もったいない、で飯は喰ってけねえよ。まだ喰ってってないけどさ、学生だし。別に歌うのも嫌いじゃないぜ。ただもう自分の曲を自分で歌うルーチンに飽きたんだよ!」
「俺にはそれが理解できない」
「脳内でな、メロディ浮かんで、曲作って、さあ声を当てようっていうイメージの段になって自分の声に合わないって事があるんだよ。おいそこ理解できないって顔すんな。ともかく、そんな時野郎の声じゃなくてキュートな女の子の声がいいなーとか、セクシーなお姉さんの声がいいなーとかあるんです。それを解消するのが俺の場合ボカロだったんだよ」
「お前女の子の歌い手志望の子とかに繋がりないもんな」
「うっせえ!…まあボカロはボイトレとか相手に期待するんじゃなくて、純粋に自分の操作技量にかかってくるからそういうところも便利だけどな」
「へー」
曲を作るだけあって、色々とこだわりのあるらしいジャンの高尚な話に相槌を打ちつつエレンはぎゅっとジャンの近くに身を寄せた。
ジャンはそんなエレンの行動にぎゅっと眉根を寄せる。
「なんだよくっつくな暑い」
「暑くなきゃいいんだな」
「そういいながらエアコンのリモコンに手を伸ばすな馬鹿かお前」
身体をそらそうとしたジャンに先駆けて服を掴むとそのままリモコンに手を伸ばしたエレン。
その手を掴んで下ろしたジャンに「お前に限っては馬鹿だよ」と言うと「わけわからん」と返ってきた。
ニブチンめ、とエレンは心の中で毒づく。
恐らくこんなエレンの心の内を聞いたら、前世の、いや今世でもエレンを知っている人間は目を剥くだろう。前世も含めて自分に向かった周囲の好意にちっとも気付かなかった人間とは思えない口振りだ。
「ジャーン」
「何だ」
そっぽを向いたままのジャンの肩口に頭を載せてグリグリと押し付けたままのエレンが呼びかける。
ジャンもエレンを見ないまま応えた。
「歌うのも、自分で作った曲を他の誰かに歌って貰うのも俺は何も言わないし言えないけどさ、一緒に歌うのだけは俺に限れよな」
「何でだよ。…まあ別にお前以外の誰かとデュエットしたいって思ってねえから不都合はねえけどさ」
(そんなの決まってる。誰かと音を共鳴させる、お前との声のセッションの快楽を他人に味あわせたくなんかねえ)
あんな声のセックスみたいな事、生声でさせたくないという男心を、エレンは一人抱えていた。
今は一方的な想いでも、識ってしまった快楽を手放したくないのだから。