O~必要不可欠要素~
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「古代の人工知能と幸福たち」続きで狛日のあれこれ。多分長くなりそう。
素直じゃない人魚姫めんどくせえ。
素直じゃない人魚姫めんどくせえ。
深海にあった数千、いや下手すると数万年前の遺跡から脱出するのに、地形変動やら何やらのせいで丸三日かかった。
ようやく地表の光が見えた時は、当初のようにふざけて走っていた頃の元気なんてあるはずもなく、隣にいた苗木くんすらかすかに口を持ち上げるだけで精一杯っていう疲れきった顔だった。そんなのもちろん僕だって一緒だ。
ともかく電波が通じる場所に出られただけ助かったわけで、ほぼ行き倒れの僕たちは緊急信号を発信すると、目立つ場所に行き倒れていた。
確 かに凄い遺跡だったんだろうけど、結局僕らはあの遺跡の存在を二度と確認することは出来なくなっていた。僕らが未来機関に帰還した後、あの場所は磁場の関 係で何故か二度と発見できなくなってしまい、これも考えてあの遺跡は造られていたんだろうかとか考え出すとキリが無さそうだった。どっちにしろ、近付こう と思っていける場所じゃないってことなんだろう。
遭難していた僕らは未来機関でも探索してくれていたらしく、ビーコンが消えた地点から随分離れ た、しかも地上からいきなり信号が出たことで、その通路に関して詳しく調書を取られたけど、そんなの僕らの記憶と記録だけでははっきりするわけもなかっ た。ちなみに僕らのスーツについていたはずの記録装置(カメラとマイク)は深海途中から完全に機能停止している徹底っぷりだった。カムクラくんの手回しが 完璧だったってことか。
結局僕らもカムクラくんの約束通り遺跡の存在を報告せず、極限状態で意識が朦朧としていたという記憶混濁の報告だけをした。僕としても調書取るのに無駄に時間ばかり取られるのは嫌だったからね。
疲労と軽い栄養失調ということで医務室のベッドについていた僕のところに彼がやってきた。
「狛枝、おかえり。今回は大変だったな」
僕の帰還に合わせてベッドの準備もやっていたんだろう、日向くんだ。僕らの今回の話は大体聞いているのか、落ち着いた様子だ。彼はやたら他人の体調を気にするところがあるけど、僕に食いついてこないから多分先に誰かに聞いてたんだろう。
「ああうん、そこそこ不運だったよ。まあでもいくらくだらなくっても、僕の才能があるから死ぬことはなかっただろうけどね」
「何いってんだよ、本当。お前の才能がいくら凄くたって、自分の才能にかまけて努力しなけりゃ生きて帰ってくるなんて出来ないだろ。…生きて帰ってきてくれて、ありがとう」
「・・・」
僕は気恥ずかしい空気を感じて、彼から目を逸らした。こういう、恥ずかしい事をさらりと口に出せてしまうのが彼の怖いところだと思う。僕は誤魔化すように言った。
「ま、いくらくだらない僕であっても、なんの希望の足がかりにもなりそうにない無駄死だけは避けたいからね。それに僕だけじゃなくて僕より素晴らしい才能を持つ苗木くんも居たんだから、諦めるわけないでしょ」
「…そうか。お前がそう言うなら、それでいい。ともかく、生きて帰ってくれたら、それだけで」
そういう日向くんは何故か遠くを見ていた様だった。何を考えているんだろう。
言葉が途切れ、沈黙する。前に会った時、きまりの悪い別れ方をしていたから、僕は彼にどんな口をきいていいのか把握しかねて、彼と一緒にしばらく黙っていた。
「日向くん、僕にかまってる暇なんてあるの?僕以外にも、僕以上に優れた人たちの為の準備が君にはあるんじゃないかな?」
「…別にサボってここに来てるんじゃないんだがな。ま、思ってたよりも元気そうだし、お前もしばらくゆっくりしろよ」
そう言うと日向くんは椅子から立って医務室から出ていった。僕は自分が言い出したくせにすんなり出ていってしまった彼をもうちょっと引き止めたい気持ちにもなったけど、それよりも優先すべき事があると頭を振った。
カムクラくんから貰った、例の運をコントロールするプログラムの解析と実験だ。
僕はまず自分の左手についているバンド型の携帯端末ーPDAを起動した。このPDAは元々未来機関が開発した世界最先端の技術の塊で、しょっちゅう不運に巻き込まれる僕のための特注品で5トンの重圧にも耐えるし防水防熱加工もしっかり施されている。その中身は苗木くんらが使うタブレット型PC程ではないけど、それなりに情報検索や解析に役立つプログラムが入っている。
…はずだったんだけど、カムクラくんはこのPDAの中身を基本OS(オペレーションシステム)はそのままに中のメモリをまずよくわからない手段で増やして謎のプログラムを入れていた。PDAを立ち上げて見えたアプリケーションの名前は『PSYCHO+』ってなっていたけど、超能力的な技術も彼らの文明は持っていたのか、ただの比喩なのかもよくわからない。なんとなく彼らの文明のオーバーテクノロジーっぷりを見ているとそれも有り得そうだから怖い。今や僕の腕についているこのPDAも彼らのオーパーツと化しているわけだ。
僕は恐る恐る『PSYCHO+』を立ち上げた。
よくわからないプログラム言語がPDAのホログラム上を走った後、プログラムは開いた。
『ヨウコソPSYCHO+ヘ マスター登録ヲシマス』
「狛枝凪斗」
『コマエダ ナギト サマ ・ ・ ・ 氏名、声帯パターン登録完了 通常起動シマス
オ疲レ様デシタマスター コレデ常時自動的ニ「運」ガ発生スル際ニ音声モシクハホログラム表示ニテオ知ラセシマス
ナオ コノプログラムハ 「運」ノ ストックヲ最大7日間マデ行イマス ストック消費ヲ行イタイ時ハ 音声ニテオ知ラセ下サイ』
「はいはい。とりあえず、まずは運を貯めるところからかな」
まずは実践ということで、僕は運の実験を行うことにした。
ふらふらと中庭を歩いていると、早速PDAから音声がした。
『Level★☆☆☆☆☆☆☆☆☆Pattern Bad ウンヲツカイマスカ?Yes/No』
「うーん、レベル1か。じゃあノー」
すると近くを飛んでいた鳥から立て続けに背中に糞を落とされた。なるほど。よくある不運だけど、予め不運か幸運かが来るってわかるだけで結構気分が違うんだな。面白いかも。
と思ったんだけど、その後も頻繁に不運が来すぎて(大半はレベル1だったけど)、PDAが煩い程だった。まあ僕のくだらない才能の甚だしさが実験的にも証明されたってことかな。いい加減小さな不運にいちいち気を使うのが面倒になったので、僕はプログラムの設定を軽度な幸運不運なら逐一通知しない設定に変更した。星レベルを5段階にしてレベル表示を2,4,6…と2倍分にしたので、軽度な運なら放っとく事ができる。
ちなみに敢えて通知が来た時に運の使用を選択せず放置してみたら、幸運も不運も通知した通りにやってきた。つまりお知らせだけって状態になったわけだ。どうやら3秒以内で選択しなければ選択放棄として認識するらしい。プログラムがその「運」の到来を妨げる機能を持っているというわけでもないみたいだ。だから条件反射で運の采配を考える必要があるって事らしい。
「このプログラムの使い方もなかなか頭が必要って事なんだね」
僕が独り言ちていると、突然PDAからノイズが聞こえてくるきた。
『調子はどうですか』
「!?」
ホログラムからカムクラくんの顔が現れて僕は息を呑んだ。そうか、彼としても自分の存在を僕らが報告しないか監視する為に、多分僕らの知らない機能をつけていたんだろう。
「上々だよ。君こそそんなアッサリと出てきてよかったの?」
『僕が貴方の今の状況を把握せずに出てくるはずがない事くらい貴方は予想しているでしょう。貴方の頭の血の巡りはそうそう悪くないでしょうから』
「ふうん、一応僕のことも買ってくれてるんだ」
『ええ。僕が今ここで敢えて連絡をとった、その意味もいちいち説明しなくていいだろうと考える程度には買っていますよ』
つまり、いつでも彼は僕と苗木くんの監視を行なっているし、干渉する手段も持っているっていう牽制、ということだろう。少なくとも苗木くんはカムクラくんにある意味全面降伏しているってちゃんと言ってたから(それに彼は約束を守るだけの義理高さと道徳心を持っている)、バラすなら僕の方を見守る方と思うのも当たり前だ。有難い事にそれだけの知恵を僕が持ってるって彼は評価してくれているみたいだし。さすがにそこまで画策するほどの頭はくずのような僕が持ってるはずないんだけどなあ。
「あはは、こんなゴミのような僕にそんな過大評価しなくても、ちゃんと黙ってるよ。それに君は恩人でもあるんだからね」
『まだそこまで恩を実感するほどこのプログラムを貴方が使いこなしているとは見受けられませんが、貴方がそう思うならそういうことにしておきましょう。
…しかし、僕は期せずして深海の魔女になったわけですか』
「ん?何のことを言ってるの?」
『こちらの話ですよ、人魚姫』
「…なにか言った?」
…いくらクズの僕であっても、一応これでも180はあるれっきとした男のつもりなんだけどなぁ…酷いな、何で人魚姫なのさ?そう思ったけど、話を蒸し返すのも嫌だったので無理に流した。
『貴方が敢えて目を逸らすのであれば追求しません。僕はただ静観するだけですから』
そう言ったカムクラくんは無表情だったけど、でもなんとなく何かを面白がっているような雰囲気がした。僕は不愉快に感じてホログラムから目を逸らした。
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