O~必要不可欠要素~
ヲタクブログです。 絵は無断で持ってかないでください。 ついったーでも呟いてます→wataame1gou シブ垢→523874
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書ききれるかなぁ…
「王子様の誕生日パーティか…」
暗闇の中独りぽつりと呟いた。手の中にあるとある企業の副社長であり御曹司の生誕記念パーティの招待状(カード)を弄んで、青年は細く長い息を吐いた。
装備も援護もほぼ無い、今日の仕事はやり遂げる確率の方が段違いに低い。それでもそれ以外の生きていく術を、彼は知らなかった。
「まさか今宵華が多いのに気づかないわけじゃないだろう?」
「おい、」
「無粋な事を言うなよリヴァイ、弟よ。無理強いしたってお前は逃げるだけだろうが、たまには運命の人(One in a million)ってのを信じてみたらどうだ?」
「…大きなお世話だ」
そう言うと、エルヴィンは予想していただろうに大げさに肩をすくめた。
当初の手はず通り従業員として潜り込むと、予想以上のきらびやかさに驚いた。
というのもどうやらこのパーティ、主催である副社長へのサプライズとしてもう一人の主催である彼の兄がパートナーの居ない彼のためのパートナー募集もしていたようだ。道理で着飾った妙齢の女性や、一部気合の入った優男がいるわけだ。同性もパートナーになれるこの国では男の玉の輿を狙う男もごく一部存在する。しかしそんな人間が仕事人間として名高いらしい標的(彼)のお眼鏡に叶うのか、甚だ怪しいものだ。
(まあ俺には直接関係ないか)
むしろ自分が明日まで生き延びるために、彼には今日ここで死んでもらわねばならないのだから。
(さて、どうやって近づくか)
手っ取り早く目標達成するなら毒殺が一番やりやすくはある。が、それでは逃げ道がない。毒殺が発覚した時点で閉じ込められるし、タイムラグをつくる程の工作が出来ないからだ。銃での襲撃も同じだ。それらの始末方法も面倒だし、調査如何ですぐに足がついてしまう。そもそもそういった得物を今回「施設」から用意されていないし、自力で準備する暇もなかった為今回はおあずけだ。
(今回の得物はナイフだけ…)
自白防止としての仕込み毒は残念ながら自滅用にしか使えない。「施設」からの逃走防止のための首輪は、いつも自分の喉を締め付ける。
(クソッタレ…失敗しても地獄、成功しても生き地獄か)
いつもは意地汚く生きることを足掻くのに、あまりに支援が少なすぎていつもは冷静に回る頭が錆び付いている気がする。雑念が多い。
事前に把握できたのは建物の内部図くらいで、標的の顔写真も遠目のものだけだったため、会場で給仕しながら標的を目視する。眺め過ぎない程度、視線の隅に留めるくらいで確認したところ、黒髪で刈上げのそのやや小柄な青年は笑みを貼り付けて招待客の話に相槌を打っていた。
(酷い愛想笑いだな。よっぽと接待客がしつこいのか、飽きてきたのか…あ、顔が真顔になった。相手引いてるじゃねえか)
どうやら度が過ぎると愛想も終了してしまうらしい。それでも副社長の座にいるのは恐らく彼自身が捕食者だからなのだろう。ホストだというのに途中で持て成す価値がないと判断すれば切り捨てる、その容赦の無さも彼の強さ故か。
あまり長く見るのも危険だと、近くの客にシャンパンの追加を頼まれたのを機にその場を去った。
その背を見つめる石灰色の瞳に気づくこともなく。
(タイミングとしては、標的が華を持ち帰ってホテルの部屋に戻る時が一番妥当か)
客に頼まれたシャンパンはタイミング悪く会場のものが切れ、厨房まで降りて取ってくる羽目になった。その移動の間に、標的も彼の兄の顔を立てる程度は流石にするだろうとひとまず算段して機を伺う事にした。シャンパンを抱え会場に戻ろうと歩いていると、その先に人影が見えた。
会場の大広間に向かう途中にある中階段は、歴史あるホテルなだけあってお伽話に出てくる城の階段のように広々として豪華で、その階段の上で男は立っていた。
「サンドリヨンのようだな」
立っていたのは今宵の標的であり、パーティの主であるリヴァイ・スミスその人だった。
男である自分がまさか灰かぶりに例えられるとは思いもよらず、面食らった顔をした自覚がある。つい後ろに誰か居るのかと見てしまったのも自然なことだと思う。
「シャンパン抱えたお前だ。他に誰か居るものか」
「失礼ながら、自分がまさかお伽話の姫君に例えられる様な見た目をしていると信じられなかったものでして」
遠回しにお前の目は節穴かと批難したにも関わらず、気にした様子もなくリヴァイは話しかけてくる。
「お前苦労してそうな面して、馬車の中で怯えた顔をしそうだからな。灰かぶり以外の何だって言うんだ」
「…それで、今晩の王子様は日付の変わる時刻まで、哀れな孤児をつまみ食いするんですかね?酷い誘い文句だ」
「悪いな…嫌か?」
再度、目を見開いて驚く。…今回は当初の方針として男色の噂のない標的に色仕掛けをしかけるつもりはなかったのだが、今まで男を相手にしたことが全くなかった事もない。急な方向転換になるが、得物の位置に気をつければ、これ以上の好機もないだろう。
「…ちょっとキザっぽさが強いです。貴方くらい男前じゃないと上滑りしちまう。ズルいな」
そう言って少し目元を伏せる。言葉のこっ恥ずかしさで自然と熱くなった頬を利用して、少し純そうな少年を演じた。…演じたといっても、いくらか素で思ったことも含んでいるので嘘ではない。勘だが、彼にはこれくらいが良いだろう。
コツリと階段を降りてきたリヴァイが自分の顎に指をかけ、顔を上げさせる。
「お前の仕事はこれで終いにさせる。ついて来い」
せっかちな王子様だこと、腕を掴まれ歩いている間俺は彼に見えないよう顔を伏せたまま苦笑した。
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