O~必要不可欠要素~
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くどいようだが、ジャンの頭は現在進行形で混乱真っ只中である。他人の依頼までももぎ取るように暗殺の仕事をこなしていたら干されそうになって、苦心して取った仕事が施設長差金の失敗を目的にした様なシビアなものだった。これはうすうす予想していたから混乱はない。しかしよもや潜り込むつもりなどなかったベッドに入ることになったと思ったら最後まで美味しくいただかれてしまって標的を殺し損ねるわ、気まぐれ起こして仕事放棄しちゃうわ(重ね重ね言うがこの判断はリアリストとしてそこそこ生きていたつもりのジャンにとって一番有り得ない行動だった)、這々の体でねぐらに戻って殺されると思っていたら殺すつもりだった標的の方がねぐらに強襲しに来るというとんでもない一日である。
一日というか時間に直せば半日も経っていない、にも関わらずジャンの半生のほとんどを縛り付けていた”はこにわ”は気づけばもうほぼ崩壊していた。それもこれも初めてあったちんちくりんのガキンチョをサンドリヨン呼ばわりした自称?王子様の多大なちょっかいのお陰である。
まさか本当に男に男の王子様なんてやってくる世の中なのか、信じられん、と飽和した頭でぐるぐる考えているジャンをプリンセスホールドで抱えたリヴァイは(混乱してるな)と見やるだけで彼にまだ何の説明もしていなかった。地下を上り地上に出るとそこそこ大きめの乗用車が待ち構えており、それに躊躇なくジャンを抱えたままリヴァイは乗り込み、発車させた。
逃げ出すにしろ、逃げる先のないジャンは身を捩ったものの本気で振り切るまでの力を入れなかった。リヴァイは己も座っている後部座席の隣にその身を離して、ジャンはひと心地ついた。
外から見た分では一般人が購入するにはやや高級かといった風の車だったが、その内部は広々としていて高級仕様になっていた。そういうお忍び用のものなのだろう。あからさまに周囲を威圧する高級車は薄汚い地下への入り口では格好のカモにしかならないのだから妥当な選択だ。半ば現実逃避にジャンが考えていると、リヴァイが口を開いた。
「さて、どこから説明すればいいか」
「その前に一つ確認したい、お前のその中途半端に明るくなった髪、どうなってるんだ?」
そのリヴァイの言葉にジャンは己の髪をつまみながらなんてことなさそうに言った。
「ああ、これは即席に染めた染め粉なんで一週間も髪を洗えば大体地毛に戻るんですよ。脱色してるわけじゃないんで」
「なるほど、それは良かった。お前の灰掛かったブロンドが見れなくなったら残念だったからよ。伸びるまで待ってもいいんだろうが」
「…!?なんでアンタ俺の地毛がアッシュブロンドだって知ってるんだ?名前だって…施設の記録にすら残ってない筈のキルシュタイン姓まで含めて、名前も言ってねえのに」
顔色を変えて追求しだしたジャンにリヴァイはひとつ息を吐いた。元々ズカズカとテリトリーを荒らして回った相手に今更ながら警戒の色を出して、警戒するにしろタイミングが遅すぎる。
「お前、身内に対しては警戒が甘すぎるって言われただろう」
「…!」
図星らしい。いちいち問答するのも面倒で、リヴァイはさっさと種明かしを始めた。
「スミス財閥の力をもってしても、お前の名前はファーストネームと年齢までしかわからなかった。そもそも施設で姓まで管理していなかったんだろう。身一つの孤児になるのが幼ければ幼い程自分の情報を忘れちまうのが普通だからな。お前の場合は少し違う事情があるみたいだが…それはまあいい。
お前、俺の経歴はどの程度知ってやがる?」
「それは…類まれなる才能を持っていた地下街出身の元ゴロツキで、現スミス財閥の実質No.1であるエルヴィン氏に引き抜かれてスミスグループの企業を転々とした後、それぞれの人事改革を行って企業の利益を最高潮まで引き伸ばした”先見の持ち主”だ…ってことぐらいです」
「ああ、そのクソ下らない別名を知ってるなら話は早えな。その力のネタとお前の事を知ってる理由はおんなじものが原因だ。お前が信じるかどうかは別だがな」
「は?つまりアンタの”先見の目”が俺にも働いたって??それにしたって、見ず知らずの人間にも通用するなんてめちゃくちゃだろ…」
「”今現在”俺と面識があるかどうかなんてどうでもいいんだよ」
「なんだそれ、アンタには未来が見えるとでも言うつもりか?」
「さあ…”それ”が過去なのか未来なのか、俺にはわからん。だが、少なくとも今の時代じゃねえんだろ」
「…今の一生ですらねえのかよ。スケールでかい話だな」
「俺もそう思うぜ」
リヴァイがそう告げると、ジャンは思わず吹き出してしまった。リヴァイにはさっきまでの会話の何が彼の琴線に触れたのか理解できなかったが、ずっとしかめっ面や疲労の顔を見せてきたジャンが初めて顔の表情を緩めた事を嬉しく感じる。
ジャンもジャンで淡々と話すリヴァイの姿勢が話術で聴き手を丸め込もうという作為的なものをちっとも感じさせない上に、他人ごとのように自身の事を言うずれた返しについ吹き出してしまった。ジャン自身も長くゴロツキ紛いな生き方をしてきたけれど、リヴァイ程言葉足らずであるつもりはない。この人ディベートとか得意そうじゃないな、絶対話しがずれていくタイプだと少ない時間ながら彼は既に見抜いていた。
「とにかく、そのやたらスケールの大きい力のお陰で俺の生来の外見や誰にも言ってなかった筈の名前を当てたわけですね。それはわかりました。じゃあ、これからアンタは俺をどうしたいんです?」
リヴァイは正直驚いた。リヴァイが”力”の話を始めてその詳細を訊かなかった人物は彼が初めてだったからだ。ジャンは一見オカルトじみたリヴァイの能力をまるごと”そういうものだ”と飲み込んで話の本筋を進めてくる。まるでリヴァイが黒髪であるのと同じように、リヴァイの個性のひとつだとそのまま受け止め、自然に今必要である別の話へと進む。こんな経験は初めてだった。
驚いたのが顔に出たのか、ジャンは怪訝に首を傾げた。リヴァイが「もういいのか」と言葉足らずに話すとジャンは「あ?ああ、今はそれはもうどうでもいいんで」と意味を拾って返してくる。リヴァイは自然と気分が浮足立つ様になった。
エルヴィンやハンジは仕事の件もプライベートでも深い付き合いでリヴァイの口下手なところに慣れて対応してくる。彼らより付き合いの長いエレン達もそれなりにリヴァイの言わんとする事を理解はしてくれるものの、それでもこちらが期待するほど意思疎通が出来ている気はしていない。それを解消するには双方の、というかこの場合は特にリヴァイ側の努力も必要になるのだが、人はそれをコミュニケーション能力と呼ぶ。(余談だがそれを磨くのは人が人間社会で生きていく上で必要不可欠のものなので特にリヴァイだけ努力しなければならないものでもない)
慣れた人間相手にもしばしば誤解を与えるリヴァイの言葉の意をすんなりと汲んでくれるジャンにリヴァイはますます熱を上げた。
「俺の嫁になれ」
「え、それ断れるんですか」
「ダメだ」
「ひでえ!俺この方だいたい15年、男として生きてきたんで無理です!」
「嫁が嫌なら婿でも構わんぞ」
「そういう問題じゃねえ…」
困り果てたジャンを見かねた運転手もしていたモブリットが仲裁するまでリヴァイはわがままを言い続け、最終的に全員が集まったリヴァイの私室の客間でジャンはエルヴィンに告げられた条件を嬉々として飲み、エルヴィンの下に再就職することになったのだった。
「何でお前がジャンを持って行くんだ!納得いかねえ!」
「まあまあ落ち着きなさいリヴァイ。花嫁修業だと思えばいいじゃないか」
「必要ねえ!アイツはもう充分床上手だ」
「口を慎みなよリヴァイ」
「せっかく奪い取ったのに…癒やし(ジャン)が足りねえ…」
ジャンが努力して力を磨いている原動力はリヴァイの恩に報いたいというものだというのをエルヴィンとの契約の時に話していたのだけども、勿体ないからしばらくは黙っていようと考える弟思いの兄エルヴィンであった。
どっとはらい。
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