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O~必要不可欠要素~

ヲタクブログです。 絵は無断で持ってかないでください。 ついったーでも呟いてます→wataame1gou シブ垢→523874

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 くどいようだが、ジャンの頭は現在進行形で混乱真っ只中である。他人の依頼までももぎ取るように暗殺の仕事をこなしていたら干されそうになって、苦心して取った仕事が施設長差金の失敗を目的にした様なシビアなものだった。これはうすうす予想していたから混乱はない。しかしよもや潜り込むつもりなどなかったベッドに入ることになったと思ったら最後まで美味しくいただかれてしまって標的を殺し損ねるわ、気まぐれ起こして仕事放棄しちゃうわ(重ね重ね言うがこの判断はリアリストとしてそこそこ生きていたつもりのジャンにとって一番有り得ない行動だった)、這々の体でねぐらに戻って殺されると思っていたら殺すつもりだった標的の方がねぐらに強襲しに来るというとんでもない一日である。
一日というか時間に直せば半日も経っていない、にも関わらずジャンの半生のほとんどを縛り付けていた”はこにわ”は気づけばもうほぼ崩壊していた。それもこれも初めてあったちんちくりんのガキンチョをサンドリヨン呼ばわりした自称?王子様の多大なちょっかいのお陰である。
 まさか本当に男に男の王子様なんてやってくる世の中なのか、信じられん、と飽和した頭でぐるぐる考えているジャンをプリンセスホールドで抱えたリヴァイは(混乱してるな)と見やるだけで彼にまだ何の説明もしていなかった。地下を上り地上に出るとそこそこ大きめの乗用車が待ち構えており、それに躊躇なくジャンを抱えたままリヴァイは乗り込み、発車させた。
 逃げ出すにしろ、逃げる先のないジャンは身を捩ったものの本気で振り切るまでの力を入れなかった。リヴァイは己も座っている後部座席の隣にその身を離して、ジャンはひと心地ついた。
 外から見た分では一般人が購入するにはやや高級かといった風の車だったが、その内部は広々としていて高級仕様になっていた。そういうお忍び用のものなのだろう。あからさまに周囲を威圧する高級車は薄汚い地下への入り口では格好のカモにしかならないのだから妥当な選択だ。半ば現実逃避にジャンが考えていると、リヴァイが口を開いた。

「さて、どこから説明すればいいか」

「その前に一つ確認したい、お前のその中途半端に明るくなった髪、どうなってるんだ?」

 そのリヴァイの言葉にジャンは己の髪をつまみながらなんてことなさそうに言った。

「ああ、これは即席に染めた染め粉なんで一週間も髪を洗えば大体地毛に戻るんですよ。脱色してるわけじゃないんで」
「なるほど、それは良かった。お前の灰掛かったブロンドが見れなくなったら残念だったからよ。伸びるまで待ってもいいんだろうが」
「…!?なんでアンタ俺の地毛がアッシュブロンドだって知ってるんだ?名前だって…施設の記録にすら残ってない筈のキルシュタイン姓まで含めて、名前も言ってねえのに」

 顔色を変えて追求しだしたジャンにリヴァイはひとつ息を吐いた。元々ズカズカとテリトリーを荒らして回った相手に今更ながら警戒の色を出して、警戒するにしろタイミングが遅すぎる。

「お前、身内に対しては警戒が甘すぎるって言われただろう」
「…!」

 図星らしい。いちいち問答するのも面倒で、リヴァイはさっさと種明かしを始めた。

「スミス財閥の力をもってしても、お前の名前はファーストネームと年齢までしかわからなかった。そもそも施設で姓まで管理していなかったんだろう。身一つの孤児になるのが幼ければ幼い程自分の情報を忘れちまうのが普通だからな。お前の場合は少し違う事情があるみたいだが…それはまあいい。
お前、俺の経歴はどの程度知ってやがる?」
「それは…類まれなる才能を持っていた地下街出身の元ゴロツキで、現スミス財閥の実質No.1であるエルヴィン氏に引き抜かれてスミスグループの企業を転々とした後、それぞれの人事改革を行って企業の利益を最高潮まで引き伸ばした”先見の持ち主”だ…ってことぐらいです」
「ああ、そのクソ下らない別名を知ってるなら話は早えな。その力のネタとお前の事を知ってる理由はおんなじものが原因だ。お前が信じるかどうかは別だがな」
「は?つまりアンタの”先見の目”が俺にも働いたって??それにしたって、見ず知らずの人間にも通用するなんてめちゃくちゃだろ…」
「”今現在”俺と面識があるかどうかなんてどうでもいいんだよ」
「なんだそれ、アンタには未来が見えるとでも言うつもりか?」
「さあ…”それ”が過去なのか未来なのか、俺にはわからん。だが、少なくとも今の時代じゃねえんだろ」
「…今の一生ですらねえのかよ。スケールでかい話だな」
「俺もそう思うぜ」

 リヴァイがそう告げると、ジャンは思わず吹き出してしまった。リヴァイにはさっきまでの会話の何が彼の琴線に触れたのか理解できなかったが、ずっとしかめっ面や疲労の顔を見せてきたジャンが初めて顔の表情を緩めた事を嬉しく感じる。
 ジャンもジャンで淡々と話すリヴァイの姿勢が話術で聴き手を丸め込もうという作為的なものをちっとも感じさせない上に、他人ごとのように自身の事を言うずれた返しについ吹き出してしまった。ジャン自身も長くゴロツキ紛いな生き方をしてきたけれど、リヴァイ程言葉足らずであるつもりはない。この人ディベートとか得意そうじゃないな、絶対話しがずれていくタイプだと少ない時間ながら彼は既に見抜いていた。

「とにかく、そのやたらスケールの大きい力のお陰で俺の生来の外見や誰にも言ってなかった筈の名前を当てたわけですね。それはわかりました。じゃあ、これからアンタは俺をどうしたいんです?」

 リヴァイは正直驚いた。リヴァイが”力”の話を始めてその詳細を訊かなかった人物は彼が初めてだったからだ。ジャンは一見オカルトじみたリヴァイの能力をまるごと”そういうものだ”と飲み込んで話の本筋を進めてくる。まるでリヴァイが黒髪であるのと同じように、リヴァイの個性のひとつだとそのまま受け止め、自然に今必要である別の話へと進む。こんな経験は初めてだった。
 驚いたのが顔に出たのか、ジャンは怪訝に首を傾げた。リヴァイが「もういいのか」と言葉足らずに話すとジャンは「あ?ああ、今はそれはもうどうでもいいんで」と意味を拾って返してくる。リヴァイは自然と気分が浮足立つ様になった。
 エルヴィンやハンジは仕事の件もプライベートでも深い付き合いでリヴァイの口下手なところに慣れて対応してくる。彼らより付き合いの長いエレン達もそれなりにリヴァイの言わんとする事を理解はしてくれるものの、それでもこちらが期待するほど意思疎通が出来ている気はしていない。それを解消するには双方の、というかこの場合は特にリヴァイ側の努力も必要になるのだが、人はそれをコミュニケーション能力と呼ぶ。(余談だがそれを磨くのは人が人間社会で生きていく上で必要不可欠のものなので特にリヴァイだけ努力しなければならないものでもない)
 慣れた人間相手にもしばしば誤解を与えるリヴァイの言葉の意をすんなりと汲んでくれるジャンにリヴァイはますます熱を上げた。

「俺の嫁になれ」
「え、それ断れるんですか」
「ダメだ」
「ひでえ!俺この方だいたい15年、男として生きてきたんで無理です!」
「嫁が嫌なら婿でも構わんぞ」
「そういう問題じゃねえ…」

 困り果てたジャンを見かねた運転手もしていたモブリットが仲裁するまでリヴァイはわがままを言い続け、最終的に全員が集まったリヴァイの私室の客間でジャンはエルヴィンに告げられた条件を嬉々として飲み、エルヴィンの下に再就職することになったのだった。

「何でお前がジャンを持って行くんだ!納得いかねえ!」
「まあまあ落ち着きなさいリヴァイ。花嫁修業だと思えばいいじゃないか」
「必要ねえ!アイツはもう充分床上手だ」
「口を慎みなよリヴァイ」
「せっかく奪い取ったのに…癒やし(ジャン)が足りねえ…」

 ジャンが努力して力を磨いている原動力はリヴァイの恩に報いたいというものだというのをエルヴィンとの契約の時に話していたのだけども、勿体ないからしばらくは黙っていようと考える弟思いの兄エルヴィンであった。
どっとはらい。

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 地下街の一角にあるとある屋敷に潜入した青年になりきれていない少年の名前はエレンという。彼は突如入った仕事で休みを返上させられたにも関わらず、身軽に音も立てず身体を動かしていた。エレン自身が仕事熱心でいつでも身体を動かせるように自己鍛錬していた賜物…というわけではなく、単純に一大イベントの日ということでエレンに構って欲しい幼なじみの襲撃を受けることに些か辟易していたが故の”逃げ”の姿勢を保っていた賜物だった。”仕事”という口実で幼なじみの襲撃を公に躱せた事の方が彼の心の負担軽減に役立つとは、とことん報われないものである。
 予め指定されていた暗がりに身を潜めていると、人の声が聞こえてきた。見張り番が戻ってきたようだ。囚人の様に乱雑に腕に抱えられていた青年前の少年は疲れ切った顔をして目を閉じていた。眠っているのか気絶しているのかわからない程度の疲労困憊の表情を顔に浮かべている。

「しっかし、ウチの所長は本当エグい趣味を持ってんなぁ」

 見張りの一人が思わずと言った風に口を開いた。もう一人の見張り番は慣れた様子で抱えた少年を部屋へ放り込む。

「へ、コイツが来るまでは所長は誰かれ構わずだったんだぜ。俺らみたいな『雇われ』じゃなけりゃあのジジイの琴線に触れるやつは可哀想な経験してたんだから、ガキどもはコイツに感謝してんじゃねえの?」
「うえっ、理解出来ねえな…ヤるにしても女の方がいいだろうによ」
「どうだかな。噂じゃ所長は勃たねえらしいし、女に碌な思い出ねえとかだったら笑えるな」

 そう言って少年に目をやった事情に疎い方の男は、言葉に反してしばし少年を見つめていた。疲れきった少年の襟ぐりは広く開いていて、口元がゆるいのか微かに開いた口からつるりとした白い歯が見えている。

「…先に忠告しとくが、コイツに手えだそうとか思うのはオススメしねえぜ。むかーし血迷ったバカがナニを削ぎ落とされそうになったとか去勢されたとか物騒な話しか聞かねえ」

 その言葉を聞いて男は一瞬顔を青ざめさせたが、すぐに「そ、それはおっかねえな…ホモペドの上に執着心が強いとか、コイツも可哀想に」と取り繕うように口走った。

 見張りの話を聞いて気絶した少年をターゲットと確認したエレンは、スッと男たちの背後に立ち、当て身を食らわせ気絶させた。部屋の隅で手足を拘束し、武器を取り上げる。そのまま部屋の隅のクローゼットに男たちを詰め込んで見張りと入れ替わる様に部屋のドアの前に立つ。万一中にいる人間が意識を取り戻した時の為ドアに鍵は掛けないままにする。
 待つことしばし、沈黙が続いた空間に第三者の足音が響いてきた。

「ご苦労様。構えを解いていいよ」

 廊下を歩いて来たのは金髪碧眼の美丈夫、スミス財閥の実質No.1と言われているエルヴィン・スミスだった。

「終わりましたか」
「施設そのものを揺さぶるのはすぐに終わったよ。今はリヴァイのリンチタイムさ」
「そんなに…リヴァイさんがコイツに執着するなんて」
「驚きかい?私より彼と付き合いが長い君が驚くなんてよっぽどだね。それで例の子はここに?」
「はい…!」

 すこし声が大きかったのかもしれないとエレンが後悔したのはその時だった。扉から腰を屈め低姿勢でタックルしてきた身体をとっさに半身で受け流し、突進してきた力を利用して床にひっくり返す。一瞬宙を待った肢体は線が細く、投げのために掴んだ襟は力に耐え切れず数個ボタンがはじけ飛んでいた。エルヴィンはすかさず倒れた少年の口に指を突っ込む。少年の奥歯近くには自滅用の毒袋があるのだ。

「安心して…と今の君に言っても信用出来ないかな。私の顔に見覚えはあるかい?エルヴィン・スミスという名は流石に知っているだろう。君がジャン・キルシュタイン君だね」

 一方的に名と顔を知っていた筈の対象から孤児になって以来誰にも言ったはずのない姓まで言い当てられ、ジャンは狼狽の顔を隠す事に失敗した。


 ジャンが意識を取り戻した時、かすかにドアの向こうから気配を感じた。予想通り”施設”に戻ったジャンに待ち構えていたのは今までに無いほど苛烈な施設長からの”躾け”だった。むしろ躾けという名の性的虐待で済んでいる事態に、施設長の今回の無理矢理な仕事の目的を理解した。任務失敗にかこつけて、性的被虐を回避しようと暗殺業務に身を浸していたここ数ヶ月のジャンの”反抗”を無に帰せようとしたのだろう。暗殺も出来ない不出来な子は生きていく為に権力者の寵愛が無ければいけない、とジャンの唯一使えていた翼をもぐことがこのふざけた茶番の目的だったのだ。
 俺は自分の命すら守れないのか。死すら自身で選べない様に、戻った途端に奥歯の毒袋は撤去された。悔しいほどに己の行動を見抜かれ、ジャンは久しぶりに悔し涙を浮かべ、絶望した。
 人形の様にただ犯されるままだった数ヶ月と比べて僅かなりに感情を取り戻したジャンに施設長は浮かれたように鞭を振るった。事実上機嫌だったのだろう、責め苦は常より長く、久しぶりにジャンは躾けの最中に気絶してしまった。

「クソッ、インポの癖に精力持て余しやがって…ふにゃチン一人で弄って独りで死ね…」

 金玉腐れろと小さな声で呪詛を吐きながらジャンは身を起こした。身体中の鞭打ち痕が痛む。久しぶりの被虐に夢中で下の様子まで気取られなくて済んだ事だけは幸運だった。”次”のスパンが長いといいのだが、それもどうなることやらと考えていると外の気配が動くのを感じた。そっとドアへ身を寄せる。
 その時ジャンはドアに鍵がついていない事に気付いた。これは…またとないチャンスだと身を潜め、聞き取れないもののお喋りに夢中になっている外の様子に、奇襲を掛けようと身を屈めて突進していった。



 奇襲に失敗したジャンは、あまりの展開の早さに目を回しそうになっていた。今夜一晩でどこまで事態がコロコロ変わるのやら、こんな経験はマルコが死んだ時にもなかったのに。
 今宵失敗したミッションに関わった標的の身内がここに訪れているということは、このクソ下らない施設に大きな変動が起きているということだ。今までずっと殺してきた感情が身体の下でうねって上手く制御出来ない。施設から解放されるのか、報復として己が彼らに殺されてしまうのか、出来ればあの黒髪の優しく抱いてくれた人にトドメを刺して欲しいな、といくらか吹っ飛んだ思考を垂れ流してジャンは己を拘束する男たちを眺めた。
 一人はパーティの時に見かけた顔、標的の義兄であるエルヴィン・スミス。そして四肢を拘束しているのはジャンと歳が変わらなさそうな少年だった。黒髪に猫のような大きな明るい色の目をした少年は悔しいことに目鼻立ちも整っているようだった。俺より小柄なヤツに放り投げられるなんて、暗殺業やってる身としては悔しさこの上ないとジャンは顔を歪める。
 ジャンの剣呑な目つきに気付いた少年―エレンは、コイツ血の気が多そうだなとその視線を受け流していた。どうしてこんなやつを気にかけてるんだろう?と上司であり己の喧嘩の師匠であるリヴァイの趣味を不思議に思っていると、その当人が廊下の先からやってくるのが見えた。

「おめえら何やってる」
「そんな剣呑な顔しないでくれ。不可抗力だ。いきなり第三者の説得を聞いてくれる状況じゃないのはわかるだろう?」

 毒の事もあったのに、とエルヴィンがごちるとジャンは驚きで微かに目を見開いた。

「有難いことに豚野郎はコイツの毒を撤去したらしい。飼い殺し目的だとよ。クソが」
「…ちなみにその施設長殿はどうした?」

 そう問いかけたエルヴィンの言葉にリヴァイは鼻で嗤って返しただけだった。おお、くわばらくわばらと唱えながらエルヴィンはジャンの口から手を引いた。ねちょりと唾液が線を引く。すかさずリヴァイはエルヴィンの身を退けてジャンの唾液まみれになった唇をひと舐めした。
 目を白黒させるジャンをよそにエルヴィンとエレンは目を背ける。目の毒にしかならない。

「エレンも手を離せ。俺が抱える」

 そう言ってエレンが身を離した隙に身を捩る間もなく言葉通りにリヴァイはジャンの身体を抱きかかえた。いわゆるプリンセスホールドである。そこまで姫扱いしなくても、と部外者の二人は思ったが、当事者はそれどころではない様子だ。ジャンは緊張で、リヴァイは逃さないという必死さで。

 この人、こんな表情も出来るんだなと驚きに満ちた顔でエレンはリヴァイを見ていた。
 エレンは10歳で両親を失い、ゴタゴタの間に人攫いに遭って地下街にしばらく身を潜めた事があった。その時似たような状況に居たミカサとアルミンと出会ってそれぞれ身を寄せ合いながら生きていたのだが、偶然絡まれたゴロツキ共を一掃したリヴァイの腕っ節に憧れ、持ち前の熱意でしつこく付きまとい押しかけ弟子となった。武芸の才はエレンよりミカサの方が数段上だったのは癪だったものの不断の努力でそれなりに負けなしの力を付けられたのはリヴァイのお陰だと今も思っている。地下街から地上へ”召し上げられた”時もリヴァイの出した条件でリヴァイの腹心としてミカサとエレンは度々裏で動く彼の手足となっている。そして策を練るのに秀でたアルミンはエルヴィンの元に引き取られ、養子として人の上に立つ術を叩きこまれているところで最近はその頭角を現してきているらしい。
 そんなわけでエルヴィンよりリヴァイと付き合いの長いエレンも、今のようなデレデレになった彼を見たことは一度もなく、話に聞いて信じられなかった事実がつきつけられて、お伽話みたいな本当の話ってこの世界に存在するんだと考えを改めた。

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パーティが行われたその日、会がお開きになって日付が変わって数時間しか経っていない深夜にリヴァイはホテルを出てとあるところへ向かっていた。

国内で有数の大企業、スミスグループの一つに連なる製薬会社の、主要な研究室となる一室に彼女はいた。使い込まれてヨレヨレになった髪ゴムでひっつめた髪は洗わなくなって1週間くらいだろうか、ギトギトを通り越してぺったりしている。それとは逆にランナーズ・ハイの様に高揚した様子で目は爛々としていたメガネを掛けたその女史はラボの最高責任者でもある、名前はハンジ・ゾエという。

「ハンジを借りるぞ」

研究室に来るなりリヴァイはそう宣言し、「相変わらず急だなーリヴァイは」とのたまうハンジを引っ張って別室の応接室へと向かった。ぺっと掴んだ手を離して握っていた己の手をウェットティッシュで拭う。

「酷い、容赦無いなあ」
「文句を言うならまずその汚い身体をどうにかしろ。そんなになるまで放置できる感覚が俺には理解できん」
「あはは、あとちょっと区切りが出来たらって思ってたらさー、ついつい」
「モブリット、コイツに餌与えるだけじゃなくてシャワールームにも押し込め」
「その前にまず寝てください…」

どうやらいつにも増して研究が絶好調だったようだ。アイデアが湧き出した時の熱中ぶりは研究者として随一なのだが、いかんせん人間の生活水準は著しく落ち込むほど後回しにしがちなのが玉に瑕だ。

「それでもまあちょうど集中切れちゃったし、リヴァイGJ」
「お前は何様なんだ…ったく。…エルヴィン、繋がったか」

タブレット端末から回線をつないで自宅でくつろいでいたエルヴィンとも顔を合わせる。

『やあリヴァイ、お前がこうしてわざわざこんな時間に私達を呼び出すのも久しいな。また何かするのかい?』
「ああ。ガラスの靴を解析して貰いたい」
『「…」』

「言っとくが、比喩だからな」とリヴァイがすかさず言うと、二人は騒ぎ始めた。

「リヴァイが気障なこと言ってる!なにこれ気持ち悪い」
「今のお前に言われたくねえ。物理的な意味で」
『まさか…本当にOne in a millionを見つけたのか!?おめでとうリヴァイ!それで君を袖にするほどのサンドリヨンはどの娘なのかな?リストはあるぞ!』
「リストか…残念ながら必要なのは招待客のもんじゃねえ。ホテルの従業員のものだ。それもどこまで辿れるか…」
『どういうことだ?』

リヴァイはかいつまんでジャンとその夜の事を説明した。

『…色々と言いたいことはあるが、元々焚き付けたのは私だからそれは言わないようにする。しかし、その子は本当に信用出来るのか?』
「お前に昔何度か言ったあの夢物語が関係していると言えばわかるか?」
『そうか、その子もお前の”お話”に登場していたのか』
「ああ…ちっとも変わってなかった。クソみたいに真っ直ぐなところとかな。似合わねえ黒髪に染めやがって、俺のところに来るまでに”昔”の馬車の中と同じ様に怯えたんだろうな」

簡素な変装をして怯えたように顔を伏せた馬車の中の少年、その風景は特に印象に残っていた。
リヴァイは度々不思議な夢を見ることがある。それは”何か”に追われる場面だったり、誰かを恐喝しているところだったり、内容はよく覚えていないけれど胸糞悪い裁判の途中だったり様々だった。それらの意味するところは結局のところリヴァイには理解できなかった―なにしろ理解するほど情報量もなく、取り留めもない場面ばかりであったから―が、それでもその夢は彼にとって有益なものだった。
それは夢の中に出てくる人物が、時たま現実で出会った実在する人間と一致する事があったからだ。
どうやら夢の中で見ている…いや、リヴァイが”覚えている”部分は特に人物の人格や性格をよく現した場面が多かった。孤児からアンダーグラウンドへはぐれて自分の腕っ節だけで生きていた頃から危険な目に合いそうになった時、夢の中で見た悪人には徹底的に警戒し、仲間であったであろう人物に似た人間だけは比較的素直に信用していた。そしてそれらは大体夢の通りで、外面は完全に一般市民の顔をした人物でも性格のねじ曲がったところを夢で見ていた人間は後でリヴァイを利用しようとしたり、裏切ったりしようとした。逆に一度でも仲間として信用していた場面を見ていた人物はどんな悪人面をしていても芯の通ったところがあったり信頼を置くに足りる人間であった。そしてその力の行き着いた先が、今のスミス財閥への抜擢である。
人を見る力を持つアンダーグラウンドの有名なゴロツキは、その噂を聞きつけてやってきたエルヴィンを一目見るなり彼の差し出した手を取ったのだ。


『リヴァイ、お前がそこまで詳細に覚えているとは、その子はよっぽど”前”のお気に入りだったんだろうな』
「ああ…おそらくな。…ジャン、”今度こそ”幸せに…」
『どうしたんだ?』
「?いや、なんでもない」

後半は誰に聞かせるつもりでもなく、無意識に零した言葉だったのだろう。問い返されてリヴァイは己の言葉の意味を理解していないようだった。

「リヴァイの”先見の目”で見てたんならその子は大丈夫なんだろうね!ただ、話を聞くと今の彼の周りの環境は最低最悪みたいだけど」
『ああ、裏稼業でしかも男相手の枕仕事にすら耐性があるようだったからね。今すぐ灰の中から引っ張りだしてやらないと』
「それとアイツに手を出したクソ共を全部削いでやる…。
とにかく、今ある情報が”仕込み毒”の風習とその位置、それと孤児を利用して裏稼業させている”孤児院”の特定だ。今回俺を仕留め損ねたからな、”処分”が済まされていなければいいんだが」
『だからこんな時間なのか。ずいぶんせっかちだなと思っていたんだが』
「悪いが今夜はお前らを眠らす余裕はない」
『美女に言われたいような言葉だね』

つまらない切り返しをしたエルヴィンにリヴァイは冷たい舌打ちをして一旦通信を切ろうとした。そのタイミングでエルヴィンから一つ確認の言葉を落とされる。

『リヴァイ、”孤児院”があると考えた理由はなんだ?そしてそれに繋がる手がかりは他にはないか?』
「一つは俺が昔聞いた質の悪い噂だ。孤児を集めてろくでもない労働をさせる院もあるくらいだからここはマシだろというクソくだらない脅し文句をガキの頃に聞いた。あの頃は本当か疑わしいと思っていたがな。それとジャン…あいつに俺がサンドリヨンと呼びかけた時に灰かぶりをわざわざ孤児と表したからだ。アイツ自身が本当に孤児だから無意識に重ねあわせたんだろ。
あとは、アイツが持っていた得物…ナイフを気づかれない様に見た時、柄に丸を描いた紋章が入っていたな…蛇がモチーフで珍しいものだったから覚えている」
『円を描いた蛇と言ったらウロボロスの輪だろうか…確かに紋章としては珍しいな』
「それくらいだ」
『わかった、コチラでも何か判ったら連絡するよ』
「頼む」

エルヴィンとの通信が切れて、リヴァイはハンジへ向き返った。

「私はその仕込み毒に適しそうな物質の目星と入手先の割り出しかな?」
「ああ。自滅用は最終手段だが、その次に必要なのが証拠隠滅だ。死体から足がついては元も子もないからな。毒がその存在を簡単に判別出来ないようなものを選ぶか、逆に入手ルートが多すぎてどこから手に入れたのかわからないものにするか、どちらかだろう。
そしてこれは完全に勘だが、アイツの場合は前者だと思う。クソみたいな話だが、紛争が多く孤児の溢れるこの国で子供の入手が比較的容易い中、アイツがすっかり成長しているのがその理由だ。鉄砲玉にするには子供が成長するほど時間が立っているということは、使い切り時期をアイツは生き残ったということ、そしてそれだけ生き残った逸材の首輪は摩減の激しい安物の毒は危険すぎる。おそらく長く生き残った時点でアイツの仕込み毒はより複雑なものに入れ替えられているだろうな」
「だからそこを逆手にあの子の”孤児院”を特定する、ってわけだね。仕込み毒の箇所と他の口内の施術痕は覚えている?」
「ああ、ここと…」

そう言ってリヴァイはタブレットに表示された人体モデルの箇所を指で示した。

「わかった、任せてよ!口内で含む形ってのはポピュラーだけど、設置の仕方とかでずいぶん毒も限られてくる筈だからある程度絞れると思う。
んふふ、リヴァイのお姫様かー、どんな子なのか今から見るのが楽しみだよ!待ってなさい」
「…お前に見せると減る気がするが」
「酷い!減らず口!」
「だが、頼む」
「ん、任せて」

そうして夜は更けていった。

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書ききれるかなぁ…


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まだまだ続くよMHネタ。

子供が出来たよ!やったね!
というわけで主夫ジャンとお母さんなのに完全にお父さんポジのリヴァイさんの話。
妄想のストックはこれまで。

ちなみに、なエレンの設定。
エレンは多分リヴァイが退治した天廻龍シャガルマガラの生まれ変わり。リヴァイ譲りの黒髪とジャン譲りの金眼を持っているけど、ジャンの蜂蜜色の瞳よりギラギラした色をしているのを見てリヴァイはもしかしたら…と思ってる。でもママンがしっかり躾けてくれるから暴れん坊でも優しくて情に厚い子になるよ!
エレンはリヴァイの事を敬愛してる。ジャンの事は誰よりも大切な人と考えている。父離れなかなかしなくってジャンは首をかしげるけど、リヴァイはさもありなんって思ってる。でもジャンの一番はリヴァイだと思っているので、母が来たらスッと父を譲る。万年新婚夫婦な両親を呆れてみる時もあるけど、イチャイチャしてないとそれはそれで不安になる。複雑。

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